東北芸術工科大学
地方都市の中心市街地で多くの商店街が抱える、後継者不足や客足の減少という課題。今回、東北芸術工科大学の学生たちが山形駅前の商店街活性化プロジェクトに企画段階から参加し、その経験が商店街への意識や行動にどのような変化をもたらしたのかを調査しました。結果からは、プロジェクトへの主体的な参加、すなわち「自分ゴト化」が、商店街への愛着や訪問意欲を劇的に向上させることが明らかになりました。
研究の背景:学生が仕掛けた「YAMAGATA ひとくちグランプリ」
この研究は、東北芸術工科大学、企画構想学科の専門科目「ディレクション演習」の一環として行われました。学生たちは山形駅前の2つの商店街(大手門通りすずらん商店街振興組合、山形駅前大通り商店街振興組合)が抱える課題について直接ヒアリングを行った上で、活性化イベント「YAMAGATA ひとくちグランプリ」を企画・提案しました。これは、商店街の飲食店の料理をワンコインで気軽に楽しんでもらい、お気に入りの店に投票してもらうというイベントです。学生たちはイベントのPR、参加店の交渉、現場の設営・運営まで、全てのプロセスに主体的に関わりました。
1. プロジェクト参加で劇的な変化!親近感・推奨意向・来街率が大幅アップ
プロジェクトに参加した学生(参加者群)は、参加前(5月)と後(7月)で、商店街への意識と行動が大きく変化しました。
一方で、プロジェクトに参加しなかった学生(非参加者群)では、親近感はほぼ変わらず、推奨意向と来街率はむしろ低下する結果となりました。
2. 非参加者にも効果あり。SNSやイベント情報への接触が態度を改善
さらに分析を進めると、プロジェクトに参加していない学生でも、イベントのSNS投稿を見たり、ポスター広告に触れたりした「情報接触者」は、そうでない学生に比べて親近感や推奨意向が有意に高いことがわかりました。これは、プロジェクトから発信される情報が、無関心層の態度をポジティブに変える上で有効であることを示しています。
考察と今後の展望:商店街の「担い手」を育てる可能性
本プロジェクトの統括および調査分析を行った、東北芸術工科大学デザイン工学部、企画構想学科の非常勤講師、土田洋史氏は、今回の調査を経て、「学生が主体的にプロジェクトに関与することで、商店街との心理的な距離を縮め、愛着を育む上で極めて効果的である」と分析結果をまとめました。またプロジェクトに参加した学生からは「商店街の人がとても親切で温かい」「また訪れたくなった」といった肯定的な声が聞かれた一方、非参加者からは「居酒屋が多く入りづらい」「目的がないと立ち寄らない」といった厳しい意見も挙がりました。
土田 洋史
Hiroshi Tsuchida
東北芸術工科大学 デザイン工学部 非常勤講師
調査の概要
目的:
プロジェクトへの参加が、学生の商店街に対する「親近感」「他人への推奨意向」「プライベートでの来街率」に与える影響の検証。
対象:
方法:
2025年5月8日~5月30日(商店街イベント実施前)と7月18日~7月30日(7月5日のイベント開催直後)の2回、同一の設問でオンライン調査を実施。設問は商店街に対する親近感(1~5)、家族や友人への推奨意向(0~10)、過去1か月の商店街訪問経験(複数選択可)、生活環境の変化、商店街情報・イベントへの接触頻度を設定。生活環境や通学経路に変化があったと回答した者を除き、参加者群は5月が24名、7月が31名、非参加者群は5月が167名、7月が62名の有効回答を得た。
変数定義:親近感と推奨意向の設問を数値化し、プライベート来街は「プライベートで訪れた」と回答した場合を1、それ以外を0とした。情報接触は「この1か月で、駅前商店街エリアに関する情報やイベントに接触したことがありますか?」の設問において「特にない」と回答した者を0、その他の回答(イベント参加、SNS投稿閲覧、ポスター・広告など)を1とした。
分析手法:
授業参加の有無と情報接触の有無に基づき4群を設定し、各群の親近感、推奨意向、プライベート来街率の平均値と標準偏差を算出した。5月と7月の前後比較および各群間の比較にはWelchのt検定を、来街率の比較には比率のz検定を用いた。自由記述は内容をカテゴリー化して整理した。
調査主体:
注意
本調査結果の利用には、必ず、東北芸術工科大学イノベーション&コミュニケーション研究所(通称:IC Lab.)の明記をお願いします。また調査結果に関するお問い合わせは下記よりお願いいたします。
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